ゴルゴ商売学

味覚とエッセイ

――床屋と漫画と、おっさんたちの人生講義

先ほど、夏に向けて子猫たちをダニシャンプーで洗っていたのですが――
ふと、不思議なことに幼少期の床屋の風景が頭をよぎりました。

私にとって、あの頃の床屋というのはただ髪を切る場所ではなく、**「おっさんたちの談合場」**であり、
その中にひっそりと潜む「商売学の養成所」のような場所だったのです。
もちろん、そんな解釈は私の勝手な思い込みなのですが…。


子供が出入り自由な“秘密基地”

私の近所の床屋は、子供が勝手に出入りしても怒られない、ゆるくてあたたかい場所でした。
ただし条件がひとつ――**「お客さんがいるときだけ」**という限定付き。

店内では、おっさんたちが床屋椅子に座って、頭を刈られながら話す話題といえば、
政治でも経済でもなく、大人の事情の匂いがプンプンするマニアックな内容ばかり。
ほとんどの子供たちは早々に退散していきました。

ところが、私は違いました。
大人の話に聞き耳を立てながら、壁にズラリと並んだ「大人向け漫画」を読みあさる、そんなませガキだったのです。


ゴルゴ13は営業の先生だった

中でも私の心をとらえたのは、**『ゴルゴ13』**でした。
世界を股にかける殺し屋――というよりも、国際的に活躍する営業のプロフェッショナルという印象が強かったのです。

・ブリーフ姿で人を笑わせ、
・無表情な顔つきで美女を口説き、
・必要なことだけを話し、
・一切の無駄を省いて仕事をこなす。

彼の姿から私は、「商売とは甘くない」という教訓を、自然と受け取っていた気がします。

あるエピソードで、東郷が変装して依頼人の前に現れる場面があるのですが――
どう見てもその変装が派手すぎる。
近所の人なら「東郷のおっちゃん、アラブの仮装なんかしてどこ行くん?」とツッコみたくなるレベルです。

でも、それすらもプロの営業術なのだと、当時の私は信じて疑いませんでした。


ポマードのおっさんの名言

ふと思い出したのは、祖母がひいきにしていた呉服屋の営業マンのこと。
ポマードでテカテカに7:3分けにした、かなり香りの強いおっさんでした。

そのおっさんが、私に一度だけこんな言葉を残したのです。

「ええか坊主。商売の基本はな、笑わかして仕事を取るんや。
この頭も、笑わせるための知恵なんじゃ。」

子供心に、「ああ、この人も一流やな」と思ったのを、今でも覚えています。
きっと、東郷のおっちゃんとポマードのおっちゃんは、同じくらい凄い人だったんだろうなと。


笑わせて、信頼を得て、仕事を取る

子猫の毛を洗いながら、私は思いました。

“商売”って、技術や知識も大事だけれど、
「どう見せるか」も、同じくらい大事なんやなと。

黙って信頼を勝ち取るゴルゴ。
笑わせて場を和ませる呉服屋のおっちゃん。
正反対に見えて、実は同じ道を歩いているのかもしれません。


まとめ:私の「ゴルゴ商売学」

✔️ 自分の“見せ方”を持つこと。
✔️ 人を笑わせる知恵を忘れないこと。
✔️ 結局、信用されるかどうかがすべて。

あの床屋は、子供が自由に出入りできる“髪のサロン”でありながら、
知らず知らずのうちに**“人間観察”と“営業哲学”を学べる場**だったのです。

あの頃、何の気なしに読んでいたゴルゴ13――
今思えば、最高の教科書だったのかもしれません。


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