砥部焼の器と暮らすということ ─ 私の日常に寄り添う静かな存在

味覚とエッセイ

はじめに

器選びというと、つい「使い勝手」や「デザイン性」といった機能面に目が向きがちです。けれど、最近の私は、器が持つ“静かな存在感”に心を動かされることが増えてきました。

たとえば、愛媛県の伝統工芸「砥部焼」。その中でも、ごくシンプルな小皿や茶碗──細い線が2〜3色で引かれているだけの控えめなデザイン──に、なぜだか強く惹かれてしまうのです。

見せる器、語りかける器

砥部焼は、ただの道具ではなく、私にとっては**「暮らしに語りかけてくる存在」**です。
ある日、棚にその茶碗をそっと並べてみたとき、ふとこんな印象を受けました。

「私をこういう場所に置いてくれると、もっと見栄えが良くなりますよ──」

それはまるで器が静かに語りかけてくるような、そんな感覚でした。

余白がつくる、美しさの余韻

その器は決して目を引くような派手なデザインではありません。けれど、まわりの余白と調和することで、かえって温かみが生まれます。

茶色い木の棚や、柔らかい自然光の入る机の上に置いてみると、砥部焼の線と釉薬がほんのりと浮かび上がり、まるでそこに小さな美術館が生まれたような印象を受けました。

たった一皿を並べただけで、空間の空気が変わる──そんな体験は、器と暮らす日々の中で生まれる小さな驚きです。

使わない器にも意味がある

最近では、砥部焼の小皿を木箱の中に並べ、まるでオブジェのように飾ることが日課になりました。特に使うわけではありません。でも、釉薬の色合いが日によって違って見えたり、昔集めていた小物への記憶が蘇ったりと、不思議と心が和らぐのです。

「器の中に、幼い頃の私がちょこんと座っている」
そんなふうに思えることすらあります。

モダンと伝統が寄り添う、いまの砥部焼

近年の砥部焼は、伝統的な白磁に藍の絵付けだけでなく、現代の暮らしに寄り添うモダンなテイストも加わっています。
可愛らしさを感じるフォルムや、色数を絞ったシンプルな線画のデザインなど、過剰な装飾に頼らず、空間と調和する美を感じさせるものが増えてきたように思います。

「何も語らないようで、何かを確かに伝えてくる」──
それが、私が砥部焼に感じる静かな魅力です。

まとめ:器は、暮らしの声を映す鏡

器が教えてくれるのは、「何を盛るか」だけではありません。
どこに置き、どんな空間に暮らすのか。
そして、どんな気持ちでその器と向き合うか。

たとえ派手な柄でなくても、たった一本の細い線があるだけで、そこに感じる“佇まい”があります。
それは、使う人の心に静かに語りかけ、暮らしの一部として溶け込んでいく。

砥部焼との出会いは、私にとって「器は生活の一部であり、人生の風景そのものなんだ」と気づかせてくれた体験でした。
あなたの暮らしにも、そっと寄り添ってくれるような器との出会いがありますように。


✦ おまけ:あなたの器、今日はどこに置いていますか?

何気ない棚の一角、窓辺の片隅、キッチンのカウンター──
砥部焼のような静かな器は、置かれる場所によって表情を変える小さな風景画なのかもしれません。


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