祖母が教えてくれた味。炊き込み風・松山鯛めしの記憶

郷土の味と記憶

子供のころ、祖母の家の台所から漂ってくる香ばしい匂いが、今もふとした瞬間に記憶の底から立ちのぼってきます。
あの香りの正体は、「松山鯛めし」。
鯛の身からしみ出る旨味が、ふっくらと炊き上がった米ひと粒ひと粒に染み渡っていた、あのご飯です。

このレシピは、私が祖母から受け継いだ、どこか懐かしい「炊き込み風・松山鯛めし」。
今日は、その味と記憶を、あなたにお裾分けしたいと思います。

松山鯛めしとは?

鯛めしと一口に言っても、実は地域によって全く違う料理になるのをご存知でしょうか。

  • 宇和島(南予)では、刺身の鯛を生卵と一緒にタレに絡め、ご飯にかける「ひゅうが飯」風
  • 松山(中予)では、鯛を丸ごと炊き込む「炊き込みご飯」風

どちらも愛媛の誇る郷土料理ですが、今回ご紹介するのは、松山で親しまれてきた炊き込みタイプの鯛めしです。

材料(4人分)

  • 鯛の切り身:2切れ(または小ぶりの鯛1尾)
  • 米:2合
  • 昆布:5cm角
  • 薄口醤油:大さじ2
  • みりん:大さじ1
  • 酒:大さじ1
  • 水:適量(炊飯器の2合分の目盛に合わせて)

作り方

  1. 米は洗って30分ほど浸水し、ザルにあげておく
  2. 鯛に軽く塩をふり、グリルまたはフライパンで両面を焼く(焼き目が香ばしさのポイント)
  3. 炊飯器の内釜に米を入れ、昆布、調味料、水を加える
  4. 焼いた鯛を上にのせて、通常モードで炊飯
  5. 炊き上がったら鯛の骨を除き、身をほぐして軽く混ぜる(混ぜすぎないのがコツ)

思い出とともに味わう:鯛めしの本当の役割

最近では、一六本舗などで見かけるような、小ぶりな釜飯スタイルの松山鯛めしをよく見かけます。
ひとりひとりにちょうど良く盛りつけられた、品のあるスタイルです。

けれど、私の記憶の中にある松山鯛めしは、それとはまったく違っていました。

大きな釜に、豪快に。

山あいの町で暮らしていたころ、鯛めしは「ひとりのため」の料理ではなく、「みんなのため」の料理でした。

釜の大きさも今とは比べ物にならず、時にはまるで祭りのような雰囲気で、一度に何升も炊きあげることも。
しかも味はかなり濃いめで、おかわりをする手が止まらないほど。

そこに並ぶのは親戚や近所の人たち──自然と人が集まり、わいわい賑やかな食卓ができあがっていました。

記憶に残るのは「味」より「場」だった

思えば、あの鯛めしの本当の味は、もう正確には思い出せません。
でも、大きな釜の湯気と、しゃもじの音、人々の笑い声と、祖母の背中──それは今でも鮮明に浮かびます。

きっと私にとって、鯛めしとは「人が集まるための料理」だったのだと思います。
その料理を囲むことで、会話が生まれ、思い出が積み重ねられていく。
そんな記憶を、また今日の食卓にも少しだけ取り入れられたら、と思うのです。

あとがき

今回ご紹介した炊き込み風・松山鯛めしは、派手さはないけれど、心をほっと落ち着かせてくれるような料理です。
普段は手間をかけないごはんでも、ほんのひと手間と、ちょっとした思い出を添えるだけで、きっと特別な一皿になります。

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