魅+夜話 大人の友情と、夜釣りラーメンの思い出

魅+夜話(みたすやわ) まちの中華夜話

高校時代のある出来事を、今でもときどき思い出します。
当時、私は水の容器を運ぶ単純作業のバイトをしていました。仕事は地味で、人付き合いも少なく、淡々とした日々を送っていたある日――その出来事は起こりました。

工場のすぐそばに自動販売機があり、その補充をしていた家族経営の飲料会社の人が、ふとしたきっかけで私に声をかけてきました。最初は挨拶程度でしたが、徐々に言葉が増え、ついには「君の働き方を見てて、好感を持ったんだ」と言われたのです。

どうやらその人はその会社の“専務さん”のような立場。兄が後を継ぎ、自分が裏方として支えていく――そんな話をしてくれました。
正直、私には関係のない話でした。けれど、何度かジュースを差し入れてくれたことをきっかけに、気がつけば仕事終わりに一緒にご飯を食べに行くようになっていました。

専務さんはいつも奢ってくれました。財布の中に小銭しかない私とは違い、彼の懐はいつも余裕に満ちていました。

あまりに何度も奢ってもらうと、次第に自分が“乞食”のように思えてきて、私は「補習がある」「他のバイトが入った」と理由をつけて距離を置こうとしました。でも、どういうわけか、それがかえって「遠慮深い」「律儀なやつ」と好印象を与えてしまったようで、ある日にはわざわざ会社の車で迎えに来てしまう始末。

こうなったら、もう逃げ切れません。
せめてものお返しにと、専務さんの家の棚を手作りすることにしました。叔父に作り方を教わりながらなんとか仕上げ、夜釣りの付き合いもこなしました。

正直、「大人の友情」とは、思ったよりもずっとややこしくて、面倒なものでした。
けれど――

夜釣りの帰り道に、二人で食べた「豚太郎」のラーメンの味。
なぜだか、その一杯がやけに沁みていたのを、今も忘れられません。


人生観で言えば、ラーメンと餃子みたいな関係でしょうか。
お互いが無理に引きつけ合うわけではないけれど、なんとなく一緒にいると落ち着く。

そんな人間が、生きているうちに何回か現れます。
無理に出しゃばらずとも、なぜか相手のことが分かる──そんな関係って、実はすごく貴重なのかもしれません。


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